• 認知症(多摩区歯科医師会学術講演会)

8日土曜日は、診療後、多摩区歯科医師会主催の学術講演会に出席しました。

演題は、「認知症の理解とケアーオーラルフレイルと予防ー」であり、

講師は 東京都立松沢病院院長である齋藤 正彦先生でした。

 

認知症とは?、その有病率、症状の成り立ち、海馬と記憶の壺の関係、時間・空間・人間関係の見当識とその低下、

アミロイド仮説とアルツハイマー病の治療薬の現状、認知症のケア、認知症の予防とオーラルケア 等、スライドを用いて大変分かり易く教えていただきました。

 

認知症を起こす病気は、変性疾患(アルツハイマー病・レビー小体病・前頭側頭葉変性症)、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・動脈硬化)、感染症(クロイッツフェルドヤコブ・AIDS・梅毒)、その他(頭部外傷・薬物中毒)等であり、要するに脳の細胞を壊す病気は全て関係します。

しかし、普通に関係するのは、一般的には変性疾患と脳血管障害と思います。

 

アルツハイマー病の特効薬の可能性については、その病気の背景に実際には脳血管障害があるのがほとんどなので不可能であろうとのことでした。残念なことです。

 

認知症のケアはリハビリテーションということで、実例を交えて説明があり、成程と思いました。

ある認知症のおじいさんが、夜中に玄関でおしっこをしてしまったと家族から相談があったそうです。よく話しを聞くと昼間は問題なく普通にトイレで用を済ますとのこと。

アドバイスとして、

夜暗い時だけに問題がおこるのは、空間の見当識の低下が原因である。

(例:正常時、自宅であれば、暗くても、何となくスイッチの場所を探せる)

そうであれば、トイレや、その入口を電灯で明るくし、昼間のようにする。

そのことで、問題なく用を済ませるようになったそうです。

 

また、失われた能力の回復は、血管性認知症の一部以外では効果がなく、基本的に不可能であるそうです。

加齢に伴いおこる現象のひとつであり、残念ながら、認知症になったら、回復不能のようです。

大事なことは、周囲の関わる者がそのことを受け入れて対応・接すること。

 

ところで、松沢病院は、基本的には精神科病院です。

しかし、通院中や入院中の患者さんの為に、内科・外科・整形外科・形成外科・脳神経外科・リハビリテーション科・麻酔科・眼科、そして歯科があります。各科のドクター数は少ないようですが。
そのような状況の中、松沢病院では、全身麻酔前処置前に、歯科医師が、口腔内の確認と衛生管理を徹底するようになってから、術後誤嚥性肺炎が無くなったそうです。

 

また、慢性病棟では、歯科医師・歯科衛生士が、患者さんや病棟看護師に口腔衛生指導を行っており、

その結果、感染症の減少、口腔機能の維持が認められたとのことです。

 

歯科医師でなく医科医師が、口腔衛生の大切さを発言していただくと、本当に有り難いと思います。

我々歯科医師にとっては、お口の健康の大切さ、全身の健康との関係は、随分前から当然のことですが、我々歯科医師だけがお口の健康の大切さを訴えても限界があります。

歯科関係者以外が、発信していただけると、益々広がると思います。

生物が生きる為には、まず栄養を摂取する為の口は必須。

「口は、健康の源」 です!

 

講演に戻ります。

「80歳からの認知症予防」

として齋藤先生が巷で見聞きするフレーズに対して私見を述べられたので、ご紹介します。

・ジムで筋トレ、ストレッチ➡早起きしてラジオ体操

・凛々しい格好でジョギングする➡一駅手前で降りて歩く

・社会貢献活動に邁進する➡社会活動はほどほどに

・赤ワインで地中海ダイエット➡好きなものを腹八分目

・認知症予防サプリをチェック➡呆け封じ玉川観音にお参り

・歯を食いしばって脳トレ・ドリル➡楽しいこと、好きなことをする

・脳ドックにお金を惜しまない➡高齢者検診を欠かさない

・認知症は早期発見・早期治療➡静かに運命を受け入れる

先生によると80歳になってから、アルツハイマー病になっても、その進行は遅く、たいして進まないそうです。

無理に抵抗することなく、あるがままを受け入れて良いことと感じました。

 

最後に、「デジタル社会は住みにくい」と題しての齋藤先生の提言をお伝えします。

※(  )内は、私の勝手な補足事項です。

・改札口、ホームに駅員がいない➡鉄道コンシェルを配置する(元鉄道マンを採用し高齢者など弱者の手助けする)

・レジを自動化、キャッシュレス化➡愚図な人専用ラインのレジを設置する

・銀行窓口業務の自動化➡暇な人(時間に余裕のある人はゆっくり窓口対応

・大学病院窓口IT化➡東大病院ニコニコボランティア

・役所の受付の細分化、IT化➡高齢者用総合窓口を設ける(あちらこちらに行かせるのでなく、ひとつの窓口で完結できるようにする)

・家事のIT化➡人間による家事支援

 

要するに

アナログが高齢社会を住みよいものにする

 

因みに、東大病院ニコニコボランティアとは、ある年から、百貨店協会の方々が東大病院の案内係を担当されているそうです。素晴らしい対応で病院自体や医師の雰囲気にも良い影響を与えたそうです。

 

今回のご講演をお聞きし、

ほとんどの認知症は、加齢変化のひとつであり、ある年齢を過ぎれば、普通なこと。それを無理に改善する必要はなく、関わる者が、素直に受け入れる方が良い。

と理解しました。

しかしながら、当院にも来院される、実際に認知症の方を支える家族の方々の苦労・思いを考えると、簡単に理解できない気持ちもあります。